はいていると、不意にチャイムが鳴り響いた。
「はいはい、どちら様でしょう?」
「宅急便です……ってうわ!」
ドアを開けると、配送業者の兄ちゃんは悲鳴を上げた。
「何でそんな格好しているんですか!?」
「格好?」
僕はふと自分の姿を見て我にかえる。
僕は女性者の下着姿で、人前に姿を出していたのだ。
押し通そう。それしかない。
「すいません、人様が着ているのに下着姿なんてお恥ずかしい」
「そこじゃねーよ! 何で女物のパンツはいてんのかって聞いてるんですよ!」
「え? いくら言えといえども、全裸で歩くのは趣味じゃないですし」
「じゃなくて、そうじゃなくて! トランクスとか、ブリーフでもいいよ! そんなセクシーな下着着る必要ある!?」
「近所迷惑なんで、人様の家ででかい声出すのやめてもらっていいですか? 警察呼びますよ」
「なんでキレてんの……」
げんなりした顔を宅配業者の兄ちゃんはする。
そこで僕は、初めて気がついたように「ああ」と朗らかな笑みを浮かべた。
「びっくりしましたよね、僕、男みたいだから。実は僕、娘なんですよ」
すると兄ちゃんは「えっ?」と言う顔をした。そうなの? と言いたげに。
「ええ、この身なりなんで、よく男に間違えられるんですよ。僕、娘なんですよ。ほら、今はやってるでしょ、男の娘」
「それ男だから! 女じゃないから! そもそも男の娘って見た目が女の子みたいだからそういわれるだけだし。あんたどう見てもオッサンじゃねーか!」
「僕が……おじさん?」
ショックだった。
確かに僕は齢三十を超えている。
しかし見た目にはまだ大学生だという自負があった。
身なりだってきれいにしているし、髪の毛だってボサボサじゃない。
家事も同年代の独身男性に比べたら、かなり頻繁に行っている。
ゴミだって散乱していないし、洗濯物も溜まっていない。
それなのに、僕がおじさん?
「訂正してくれないか」
「えっ?」
「僕をオッサンと呼んだこと、訂正して欲しい」
「あ……はぁ。すいません。じゃあお兄さん」
「それでいい」
「いや、良くないよ! 俺の認識を変えたところであんたが変態である事に変わりはないよ!」
「うるさいな……。大体、君は何が望みなんだ? 僕のからだか?」
「いや、いらないけど」
そこで兄ちゃんは、自分が持ってきた小包の存在を思い出したらしく、それを差し出す。
「お届け物ですんで、判子を」
「判子ね、分かった」
僕は近くにあった判子をポンと押す。
「ご苦労さん」
「毎度」
不可思議そうに兄ちゃんは首を捻ると帰っていった。
玄関のドアを閉め、危なかった、と僕は思う。
もう少しで僕が女物の下着をはいている事がばれるところだった。
以降はこんな事のないように、トランクスをはこう。