日常と虚構のワルツ

嘘時々ホント

帰宅

している。

叔父の家から東京にだ。

新幹線なのか飛行機なのかよくわからない物に乗りながら自宅に向かっている。

 

叔父とは書いたものの、結局彼が本当に叔父なのかはよくわからない。

いや、よくよく考えたら両親の叔父叔母はすべて顔見知りなので見知らぬ叔父がいるはずないのだが、まぁ良いだろう。世の中知らないほうが良いこともある。

 

今年はよく怖い話に想いを馳せた。

それくらいしか夏らしいことをしていない気がする。

そういえばこの時期はよく実家でお祭りが行われるのだ。

クソ長い道に出店が並ぶだけの簡素な地元祭りだが、なかなか規模があり僕は好きだった。

今となってはあまり行く気もしないが、子どもの頃は毎年楽しみにしていたのをよく覚えている。

 

その祭りに行った時、一度だけ妙な体験をしたことがある。

中学校時代のことだ。

友人と一緒に祭りに行ったのだが、あまりの人混みにはぐれてしまった。

友人を探して歩き回っていると、いつの間にか周囲の様子がおかしくなっていた。

祭りの客が全員僕のことを見ているのだ。

先ほどまで喧騒で賑わっていたのに、皆が真顔で僕のことを眺めていた。

見知らぬヤンキーも、おじさんも、赤ん坊も、まるで能面のような顔で僕を見つめるのだ。

よく見ると、皆どこか人間の顔とは違って見えた。

言葉には言い表し難いのだが、すこし違和感があるのだ。

顔のパーツとか、鼻や目の位置や角度が、普通の人間のものと違って見えた。

今考えれば、おちょなんさんという目や口が縦になっている架空の異形の存在に近かったきがする。

 

異様な気配でたじろいでいると、おおいと背後から友人の声が聞こえてきた。

友人と合流すると、どこからかざわめきが戻ってきて、いつの間にか祭りの雰囲気はもとに戻っていた。

僕の顔を見つめてくる人間は誰一人としておらず、まるで何事もなかったかのようだった。

不思議なこともあるものだと首を捻っていると、ふと近くの神社の看板が目に入った。

この地元祭りは元々土地の神様への感謝を捧げるお祭りであり、古くは神々が祭りを行っていたのを模したものだという。

もしそんな場所に人間が迷い込んだら、さぞ奇異の目で見られることだろうと思った。

 

その後は何事もなく屋台のご飯を食べ、名物である前田のベビーカステラを食べ、何やらかんやら遊んで帰宅した。

ところでベビーカステラって、買った時は美味しいのにどうしてすぐに食べるのが苦痛になるのだろうか。奇妙な食べ物だ。まぁ良いだろう。世の中知らないほうが良いこともある。

 

地元の祭りを思い出すと、どこか懐かしい気持ちになる。

でも、今祭りに参加してもどうせ中高時代の同級生が所帯持ちになって子どもと来ていたりするのだろう。

そんななか独り身の僕が歩き回っていると、やっぱりあいつ結婚できなかったんだと指さして笑われそうでムカつくので祭りに参加するのはやめておくことにする。

墓参り

に行こうと叔父が言ってきたので参ってきた。

白いワンピースの少女も一緒だった。三人で墓参りだった。

父方の親族の墓らしいのだが、うちの実家にある墓とはまた別物らしい。

どのような分別がなされているのだろう、と不思議に思った。

だけど面倒くさいので特に尋ねることはしなかった。

 

親戚のお姉さんに一人キレイな人がいてなぁ、と叔父が語り始めた。

こいついつも女のことばっか考えてんなと思ったが黙って聞いていた。

そもそも叔父の親戚のお姉さんってもはや僕にとっては何に当たるのかも不明だ。

血がつながっているのかもわからないので、もしかしたら他人なのかもしれない。

その親戚のお姉さんは残念ながら高校生の頃に交通事故で亡くなっているらしかった。

白いワンピースをいつも着ていて、笑顔が素敵な女性だったそうだ。

 

そこまで話を聞いていて、チラリと横にいた白いワンピースの少女に目をやった。

叔父の話している女性と特徴が一致していた。

不思議なこともあるものだな、と思った。

暑い中墓の掃除などを終えたので帰宅することにした。

汗かいたから居酒屋でビールでも飲むか、と叔父が言った。

こう言うときにアイス屋さんとか言わない所がこのおっさんのダメなところだなと思った。

 

ふと見るとお墓の所に立っていた白いワンピースの少女がこちらに手を振っていた。

一緒に来ないのかと尋ねると、もう帰らないとダメだからと彼女は言った。

どこに帰るのだろう、と思いながらも少女と別れた。

その後は叔父と居酒屋で飲んで、ぐでんぐでんになりながら帰宅した。

おっさんと二人で酒を飲むのはなかなかつまらないと思った。

白いワンピースの少女もそれが理由で帰ったのかもしれない。

自分ももうすっかりおっさんなのだな、と肩を落とした。

お盆

らしい。

本日8月13日から16日までである。全然知らなかった。

僕は海に来ているというのに毎日気が狂ったように小説を書いている。

新作の自信作をWebに投稿したところ本当に心のそこから驚くくらい爆死した。

まあこう言うこともあるよね、と思いながらけたたましく酒を飲んだ。

 

僕は何で泳いでいないのだろう。

酩酊した頭でそんなことを思った。

せっかく叔父の別荘にきて、海が綺麗だと言われ、毎日ビキニの美女たちを眺めているのに、何故に私は東京の狭苦しいマンションにいる時と同じことをしておるのだと。

しかも別に仕事でもないのだ。

誰にも強要されているわけでもない。

なのに、何故海まできて一円にもならん小説を書いている。

もはや不思議を通り越して不可解である。奇人そのものである。

 

しかしながら習慣とは恐ろしいもので、それでも手が小説を書くのだ。呪われているのではないかと思った。お盆ですしおすし、この指にさまよえる売れない作家の霊魂が宿っているのかもしれない。

しかしながら恐ろしいことに僕も売れない作家なのであった。ということはこの指に憑いているさまよえる売れない作家の霊魂とはワイやないか。自分で自分に憑くとは奇妙なこともあったものである。

 

そこまで考えて思った。

海に入ろう。

酔っているので思考が定まらない。

発想がポンポン飛んで、色々巡って、最終的にとりあえず海に入ろうというところに着地した。

冷静に考えたら酩酊した状態で夜の海に入るなぞ死ににいくようなものだが、まぁあんまり深く考えていなかった。だって酔っているんだもの。

 

家を出て夜の浜辺へと向かう。

すると月明かりを反射した海の浅瀬に誰かが立っていた。

白いワンピースを着た少女だった。

叔父に認知されていない叔父の娘だ。

叔父が一向に娘の存在を認めないのでそういうことにしている。

 

彼女はスカートをたくし上げながら膝丈くらいまで海に浸かっていた。

そして月明かりに照らされ、僕を見つけるとニコリと笑った。

その瞬間、僕は彼女に恋をする……わけがない。

こちとら40近いおっさんなのだ。

いくら女に飢えているとは言え、中学生か高校生かわからん少女なぞただの子供にしか見えんのだ。そこらの変質的なロリコンといっしょにされては困るのだ。それなりに独身男性としての常識と誇りがあるのだ。

 

仕方なく自分のことは棚に上げて「こんな時間に海に入るのは危ないからやめなさい」と言って帰らせることにした。

少女は不機嫌そうな顔をしていたが仕方があるまい。

こっちは保護者としての役割があるのである。

そう、僕は立派な保護者なのだ。そう言いながら缶チューハイを煽った。

海の中に立っていた少女は少し透けていた気もするが気のせいだろう。

いや、違う。決して濡れ透けを見ていたわけじゃない。舐めるな。こちとら常識のある40近い独身男性だ。何でも感でもそんな風に見るわけがない。そこらの変質的なロリコンといっしょにされては困るのだ。それなりに独身男性としての常識と誇りがあるのだ。

それはもう、絶対に。