に乗っていたら知らない間に眠っていたらしく、全然見知らぬ土地へとたどり着いていた。
降りたその土地には駅以外何もなく、一面草原が広がっていた。
すでに空は暗くなり始めており、太陽の光が地平線の向こう側からぼやけるように浮かび上がって消えていった。
月明かりに照らされた草原は緩やかな風に揺られ、さぁっと擦れては波立ってゆく。
僕は思った。
ここはどこだ。
「ここはサイハテ駅ですよ」
不意に声を掛けられ振り向くと駅員が居た。四十歳くらいのしっかりとした目つきをした人だった。
「駅員さん、いたんですか」
「そりゃあいますよ。でないと無賃乗車の嵐が起こりますからなぁはっは」
「お給金とか、安そうですよね」
「年収八百万です」
「悪くないですね」
「日本の年収で考えれば良い部類です」
「はい」
「ええ」
「ところで僕は京都駅からやってきたのですが、戻りの電車はいつ頃くるんですかね」
駅には時刻表がなかった。あるのは備え付け程度に存在する乗降場だけだ。
「それがとんと分からんのです」
「えっ」
「二年後かもしれませんし、二十年後かもしれません。もしかしたら二分後かも」
「なんですかそれは」
「なんですかと言われましても、ここはそう言う駅なので」
「そう言えば券売機もないですが、どうやって切符を買うんですか」
「持つべき人には必ず切符が行き渡るんですよ。ここはそういう場所ですから」
なんだかまるで意味が分からない。僕は一体どこまで来てしまったというのだろう。
僕が呆然としていると駅員さんがチラリと腕時計を見て口を開いた。
「それよりも、そろそろ私、今日のお勤めが終わるので帰らないとダメなんです」
「駅員さんはどうやって帰るんですか?」
「えっ、車ですけど」
「じゃあ途中までお願いします」
「面倒くさいな……」
僕は財布から千円取り出すと、彼の手に握らせた。
「じゃあ途中までお願いします」
「わかりました」
こうして僕は帰宅した。
社会は金だという話を彼女にしておいた。
彼女は何度も壁に頭をぶつけ、苦悶の表情を浮かべながら話を聞いてくれた。
幸せってこういうことかな。