日常と虚構のワルツ

嘘時々ホント

に帰って来た。

家と言うのは東京で僕が住んでいるアパートの事である。

夜行バスに乗って京都から東京まで帰って来たのだ。

 

久々の家は随分と閑散としていて、

「あぁ、僕は一人で暮らしていたんだな」

と実感する事が出来た。

 

少し寂しくなったので、「先にシャワー浴びて来いよ」ごっこをした。

「先にシャワー浴びて来いよ」ごっことは、「先にシャワー浴びて来いよ」と空想上の恋人に向かって発言するという遊びの事だ。

僕はこの遊びが好きで、職場で誰とも会話しなかった日はよくこの遊びをした。

調子がよければえなりかずきの物まねを挟みながらするのだった。

 

今日のえなりかずきは少し偉そうな「先にシャワー浴びて来いよ」だった。

明日はもっと優しく「先にシャワー浴びて来いよ」と言おうと思う。

実家に

いる。

大学時代の部活の友人の結婚式の二次会に出る為だ。

今何回「の」って言ったのだろうか。


会場には久々に会う後輩や友人もいて、なかなかに楽しかった。

良い雰囲気で、僕は変わったようで変わらない皆の姿に、学生時代を思い出して懐かしくなった。


学生時代の僕はと言えばもっととげとげしていた。

いつも殺戮を求めていたし、大学は僕にとって戦場だった。

血に飢えたナイフが渇きを知ることはなく、ふと見るといつも地面には人間の一部が転がっていた。


ある時僕がスナイパーライフルを覗きながらくわえタバコをしていると「何してんですか、先輩」と後輩のみことちゃんが話しかけてきた。

みことちゃんは新兵で、僕の一個下の女の子だった。

「狙いを定めてんのさ。教授をいつでも殺れるようにな」

「なんでそんな簡単に人を殺せちゃうんですか。みんなおかしいよ。この世界も、この戦争も」

「単位を取ればいい。そうすりゃ解放される。殺すのだって、その為だ」

「そんなやり方、絶対間違ってる」

「でも殺らなきゃ殺られるんだ。この世界はそういう風に出来てる」

「もっと、もっと違う解決法があるはずですよ!」

みことちゃんは叫ぶと、どこかへ走って行った。

その姿を見て僕はやれやれと肩をすくめた。若いな。


数ヶ月後、みことちゃんは学校を辞めた。

その手があったか、と思った。

給料日

だった。

昨夜は絶食をした。

今朝は白米を食べた。

味のあるものを食べるのは三日ぶりだった。

 

僕はメンチカツを勝った。

世の中に、これほど美味しいものがあるのかと心底驚いた。

涙を流しながらうめぇうめぇと言いメンチカツを貪った。

会社の人たちが若干引いていた。

 

「坂君、もうちょっと綺麗に食べたらどうだい?」

上司が焦って声をかけてきた。

仕方なく僕は彼の頭部を掴むと、うめぇうめぇと言って貪った。

別部署の女性社員がきゃあと叫び声を上げたので、それもうめぇうめぇと貪った。

 

貪りつくすと社内には誰もいなくなった。

アルバイトの女の子や、お世話になった上司達も僕のおなかの中だった。

時計をみると定時だったので僕はそのままタイムカードを押し、家に帰った。

 

明日も頑張ろうと思う。