日常と虚構のワルツ

嘘時々ホント

実家

に居る。

家の荷物を引っ越し業者が持って行ったからだ。

実家には何もない。漫画も、小説も、ゲームもパソコンも、何もない。

娯楽を制限された生活は僕に子供の頃を思い出させた。

子供の頃はよくファミコンをしていた。

兄と姉はスーパーファミコンをしており、僕はおさがりのファミコンしかさせてもらえなかったのだ。

ドラクエ5」や「かまいたちの夜」と言った神ゲーを姉達がやる中、

僕はデータが速攻で消えるドラクエ3をやると言った苦行を行っていた。

面白そうなゲームを眺めるだけだった僕にとってスーパーファミコンと言うのはすこし特別な存在だった。

憧れの先輩的な位置だった。

そこに居ると胸が高鳴るし、手が触れるとドキドキした。

皮肉な事に、自由にゲームを買えるようになった今となってはゲーム自体しなくなってしまった。

でも憧れである事に変わりはない。

思い出は風化するけれど、感情は劣化しない。

実家に帰るとそんな懐かしい事を思い出す。

そう言えば家を引き払う際、同居人も他方へ行く事になった。

「一緒に東京に来るかい」と尋ねたが「私生まれも育ちも京都人ですので」と断られた。

私も生まれも育ちも京都なのですが。

そこらへんいかがお考えなのだろうか。

この度無事に

転職が決まった。
現在僕は京都に住んでいるのだが、次の職場は東京だった。
そのため引越しをする必要があった。

東京のとある不動産屋で尋ねると良い物件を紹介してくれた。

駅から徒歩10分、リビングとキッチンがあり、お風呂とトイレは別。

洗面台は独立していて、会社まで通勤一時間。

これで家賃6万5千円。

 

東京で暮らす方なら分かると思うが、これは異常な価格である。

人が5人くらい死んでいないとこの価格にはならないだろう。

 

「凄くいい物件ですね。誰か死んだりしてないんですか?」

内見の際、僕が尋ねると不動産屋の営業は「いやいや」と笑いながら壁の赤黒い染みをサッと拭いた。

 

「おや、こんなところに切断された指が」

「前の住民が置いて行ったんですよ」

「なるほど」

僕は納得して頷いた。

 

ここが新しい新居か。

僕は窓から差し込む光をみて、少し笑った。