日常と虚構のワルツ

嘘時々ホント

猫娘に

会いたいんだけど、と言う話を僕がすると馬鹿じゃないのと言われた。

正確にはお馬鹿じゃないのでしょうかと言われた。

「はぁ、猫娘可愛い。会いたい」

「お馬鹿じゃないのでしょうか」

猫耳つけてコスプレしている人がいるんだからその中に一人くらい本物がいたって良いじゃないか」

僕が言うとメリーはあきれたと言う風にため息をついた。

くちゃくちゃと言う音がする。僕が大切に作って保管していたプリンを咀嚼しているに違いない。

彼女が我が家に来てからと言うもの買いすぎた食材がちゃんと使い切ることが出来る。

それは嬉しいがエンゲル係数が半端ないのである。

メリーとは最近知り合った人の背後に立つのが趣味の女性である。

彼女は押しかけ女房的に我が家にやってきた。

まるでどこかのブログででっち上げられた安っぽい記事みたいだと思った。

鏡で確認したところめんこい女子だった。

夜這いしようと思ったのだが、彼女は忍者の様に僕の後ろに回りこむのでそういったことは出来そうになかった。  

「Aさんの家より引越しして参りました。いまあなたの後ろにいます」

「ご苦労様です。今エッチな動画を見ているのですこし待ってもらっていいですか」

「はい」

「メリーさんは妖怪ですよね」

「妖怪ではありません。都市伝説です」

「つまりあなたは生ける伝説であると」

「そのように」

「はい。ところで、友達に猫娘はいないのでしょうか」

「いません」

猫娘と友人である可能性が高い友達は」

「だから、いないんです」

「そうですか」

「じゃなくて」

「はい」

「いないんです。友達」

「俺が、俺が今日からフレンドだ!」  

関西の面接

が全滅した。

家に引きこもっているが、自らの社会的地位がそれを許してくれない。

 

今日、母が晩飯に招待してくれた。

実家へ向かったが、道中鳩に糞をかけられた。

人生って厳しい事の連続なんだなって思った。

 

ところで、僕の家は角部屋で、隣人は若い男性が住んでいる。

ときおり、可愛らしい彼女が遊びに来ているのを見かける。 

ひょっとしたら同棲でもしているのかも知れない。

ただ、別に隣人にそこまで興味がないのでそれはどうでもいい。 
肝心なのはここからだ。

 

その日、僕はいつもの様に家で筋トレに励んでいた。

すると、

「今日は涼しいね、秋が近付いて来たんだね」

と隣人が彼女と会話しているのが聞こえた。

 

その会話があまりによく聞こえる為、僕の脳裏にある恐ろしい仮説が浮かんだ。

それは、僕が見ているエロ動画の音声は、全て隣人に聞こえているのではないかと言うことだ。 
 
世界にプライバシーはない。

 

大学の友人

であるA君が度々飲もうと言ってくる。

先日A君と飲んだばかりなので少し飲みすぎな気もする。

僕の様なスーパーネオ無職ならいざ知らず、A君は社会人なのである。  
 
「僕も無職とは言え、それほど暇ではないのですよ」

僕が言うと彼は「そんな!」と声を大にした。 

「奢れば来ると思ったのに!」 

失礼な男だ。 
 
 
「失礼な男だな君は」 

近所の居酒屋で僕はA君に向かって言った。 

「まぁ落ち着けよ。今日はちょっとした怖い話を持ってきたんだ」

「怖い話?」 

僕は眉を潜めた。ここだけの話、僕は怖い話に目がないのだ。

「ああ。怖いぞこれは。メリーさん、知ってるか?」

「メリーさん?」

僕は肩を落とした。知っていて当たり前だ。  

メリーさんは所謂都市伝説の一種である。

ある日突如としてメリーさんから電話が掛かってくるのだ。

「私メリーさん。今新宿区歌舞伎町前に居るの」

その電話を境にメリーさんは徐々に近付いてくる。

「私メリーさん、今名古屋うまいもん通りでひつまぶしを食べているの」

「私メリーさん、今道頓堀でたこ焼きなう」

まるで観光を楽しんでいるかのような淡々とした電話の後に、遂にはこう言うのだ。

「私メリーさん、今あなたの後ろにいるの」

そして聞こえる。冷蔵庫にあるはずのお気に入りのプリンを咀嚼する音が。  

「メリーさんなんて知っていて当然だよ。有名じゃないか」

「そうか。それなら話が早い。これはうちの会社に居る同僚の話なんだ」

A君が言うには彼の同僚のもとに現在メリーさんから電話が来ているらしい。

「一日ごとに徐々に距離が詰まって来ていて、怖くて夜も眠れないらしい」

「へぇ」

僕は頬杖をつきながら鼻くそをほじり携帯をいじりつつ相槌を打った。別に怖くもない話だ。

「どうもそいつに話を聞くと、メリーさんの呪いって言うのは誰かに移す事が出来るらしいんだ」

「へぇ、初耳だね。どうやるんだい?」

「メリーさんが背後まで来た時、人と接触すると良いんだってさ。するとしばらくしたら、そいつに電話が来る」

「ふぅん」  
 
 
そんな話を聞きながら数時間の後に、店を出る事にした。

駅前までA君を見送る。

「そう言えばA君、先ほどの同僚の人は、現在メリーさんとどれくらい距離があるんだい?」

「いるよ。後ろに」

「へぇ」

A君の去り際、確かに僕は見た。

A君の後ろにひつまぶしとたこ焼きと東京ばな奈を持ちプリンを咀嚼した洋人形が引っ付いているのを。