日常と虚構のワルツ

嘘時々ホント

明け方の

空を眺めながら、ふと、あいつらは元気かなと考えた。

しかし、あいつらとは具体的に誰を指すのかは定かではなかった。

何となくそう言ったら格好いいかなと思っただけだった。

 

恋をしたかった。

恋をすれば女性は綺麗になるらしかった。

という事は男性も綺麗になるのではないだろうかと考えた。

僕がシャツをめくると、いつもドゥルン! と贅肉が垂れていた。

この贅肉も消え失せるのではないだろうかと思った。

 

昔、僕は色々な人やゴリラや妖精や精霊と同居していた。

僕の元カノは部屋に住まう自縛霊だったし、共に生活していた同居人はアマゾンの奥深くへと旅立った。

最後に同居した都市伝説は京都に残ると言った。

誰も東京には着いて(憑いて)きてくれなかったのだ。

 

東京での生活はしばしば寂しさを覚えるものだった。

京都で良く遊んでいた友人達もそっけなくなった気がした。

東京で知り合った人は元からそっけなかった。

寄る辺ない僕には一体何が残ったのだろうかと考えた。

 

「お化けでも何でもいい。誰か僕のそばにいてくれないだろうか」

 

僕は明け方の空に向かって窓を空け、そう言った。

しかし窓を開けっぱなしにすると蜘蛛が入るのだった。

部屋の隅っこに入り込んだ蜘蛛を、僕はそっとビンに閉じ込めて外に捨てるのだった。

そういう優しい一面を見てしまった女の子が僕に惚れないかな、なんて思い、ふと背後を振り向いてみた。

 

僕の予定では誰かいるはずだった。都合よく女の子が立っているはずだった。

 

だがそこにあるのは靴下だけだった。

洗濯して部屋干ししていた僕の靴下だけだった。

 

僕は泣いた。

靴下を握り締め、涙を流し、靴下で涙を拭いた。

明け方にも関わらず、もうすぐ三十歳になる僕は泣いた。

 

こんな歳の取り方をするとは思っていなかった。

小学校の予定では、大量の女の子に囲まれ、お風呂を毎日ローテーションで別の女の子と入り、添い寝係の女の子が五人はいて、僕は年収五千万は下らないはずだった。

それなのに、月末で給料がなくてソバを食べるような男に僕はなってしまった。

こんなにソバが美味しいなんて思わなかった。

こんなにソバが。

 

 

ひとしきり靴下で泣いた後、鼻水でぐしゃぐしゃになった靴下を僕は洗濯機に投げ入れた。

ベシャリと悲しい音がして、靴下は洗濯機の中に吸い込まれた。

「うぅむ」と僕は言った。

うぅむ。