であるA君が度々飲もうと言ってくる。
先日A君と飲んだばかりなので少し飲みすぎな気もする。
僕の様なスーパーネオ無職ならいざ知らず、A君は社会人なのである。
「僕も無職とは言え、それほど暇ではないのですよ」
僕が言うと彼は「そんな!」と声を大にした。
「奢れば来ると思ったのに!」
失礼な男だ。
「失礼な男だな君は」
近所の居酒屋で僕はA君に向かって言った。
「まぁ落ち着けよ。今日はちょっとした怖い話を持ってきたんだ」
「怖い話?」
僕は眉を潜めた。ここだけの話、僕は怖い話に目がないのだ。
「ああ。怖いぞこれは。メリーさん、知ってるか?」
「メリーさん?」
僕は肩を落とした。知っていて当たり前だ。
メリーさんは所謂都市伝説の一種である。
ある日突如としてメリーさんから電話が掛かってくるのだ。
「私メリーさん。今新宿区歌舞伎町前に居るの」
その電話を境にメリーさんは徐々に近付いてくる。
「私メリーさん、今名古屋うまいもん通りでひつまぶしを食べているの」
「私メリーさん、今道頓堀でたこ焼きなう」
まるで観光を楽しんでいるかのような淡々とした電話の後に、遂にはこう言うのだ。
「私メリーさん、今あなたの後ろにいるの」
そして聞こえる。冷蔵庫にあるはずのお気に入りのプリンを咀嚼する音が。
「メリーさんなんて知っていて当然だよ。有名じゃないか」
「そうか。それなら話が早い。これはうちの会社に居る同僚の話なんだ」
A君が言うには彼の同僚のもとに現在メリーさんから電話が来ているらしい。
「一日ごとに徐々に距離が詰まって来ていて、怖くて夜も眠れないらしい」
「へぇ」
僕は頬杖をつきながら鼻くそをほじり携帯をいじりつつ相槌を打った。別に怖くもない話だ。
「どうもそいつに話を聞くと、メリーさんの呪いって言うのは誰かに移す事が出来るらしいんだ」
「へぇ、初耳だね。どうやるんだい?」
「メリーさんが背後まで来た時、人と接触すると良いんだってさ。するとしばらくしたら、そいつに電話が来る」
「ふぅん」
そんな話を聞きながら数時間の後に、店を出る事にした。
駅前までA君を見送る。
「そう言えばA君、先ほどの同僚の人は、現在メリーさんとどれくらい距離があるんだい?」
「いるよ。後ろに」
「へぇ」
A君の去り際、確かに僕は見た。
A君の後ろにひつまぶしとたこ焼きと東京ばな奈を持ちプリンを咀嚼した洋人形が引っ付いているのを。