日常と虚構のワルツ

嘘時々ホント

食材

がよく余る。

正確には作った料理が余るのだ。

本来必要な量を見誤り、食べる事が出来ると思って作成した量が異常に多くなってしまう現象だ。

いつの間にか冷蔵庫に入らなくなってしまった余りものの料理たちを見て僕は静かにため息をついた。

そんな時、チャイムが鳴った。

「あの、すいません、私下の階に引っ越してきた物なんですけれど」

美しい女性だった。こんなキレイな人を見た事がない。

「何か用でしょうか」

「あの、これ作りすぎちゃって」

彼女はそういってタッパーに入った肉じゃがを僕に差し出した。

「よかったら食べてもらえないかなって思って」

「おすそ分けってやつですか」

「ええ」

僕が知っている限り赤の他人におすそ分けなどする奴はサイコパスか重度のストーカーしか存在しないと思っているのだが、目の前の彼女はどうもそうではないらしい。

しかし、これはちゃんすかもしれない。

「じゃあお返しと言っては何なのですが、受け取って欲しいものがあるんです」

「何でしょうか?」

僕は冷蔵庫からタッパーを取り出した

「昨日作ったマグロのユッケです。作りすぎてしまって」

「そんな、悪いですよ」

「それだけじゃないんです」

「えっ?」

「今しがた作ったカレーです。余ってしまって」

「そんな」

「さらにおととい作ったコロッケもございます」

「いやいや」

「おとといの昼ご飯に作ったお好み焼きと」

「ちょっ」

「春巻き、シューマイ、餃子、チャーハン、ぶり大根、味噌汁、クッキー、ホットケーキ、パウンドケーキ、あと」

「いい加減にしてください!」

女性は叫んだ。

「何故なんですか! 何故そんなに料理を作るのです! 何故食べないのです!」

「いやぁ、作ったらなんだかおなかいっぱいになっちゃって」

「じゃあ次の食事にまわせばいいじゃないですか!」

「気分じゃないんです」

「我がままか!」

「それはともかくとして、肉じゃが、いただきます」

「そんな余ってるならまず全部食べてからにしてください!」

こうして女性は去っていった。

今度からはちゃんと冷蔵庫を開けておこうと思った。