日常と虚構のワルツ

嘘時々ホント

フランス料理

を食べに行った先輩が「最高やったわ」とおっしゃっていた。

「どう最高なんですか」

「まずミシェランの星がついとるの。コース食べるのに三時間くらいかけてな、味もホッペ落ちそうなくらいおいしいんや」

「へぇ」

まるで自分の生きてきた世界と異なる話でまるで現実味がない。

フランス料理。

イタリア料理なんかもあるが、その国の人たちにとっては一般的なものなのだろう。

高級店だから高いのであり、一般的なお店で食べる分には恐らく居酒屋に行くのとあまり大差ないはずだ。

でも僕は自分がそういうお店に行く姿がまるで想像がつかない。

もしいつか僕に恋人の様な存在が出来たとして、僕は果たしてそんなお店に行くのだろうか。

行った所で、果たして上手くやれるのだろうか。

なんだか人として、男としての自信をなくしそうになる。

僕はもう二十八なのだ。世間的にはもう大人であり、いい歳したおっさんにカテゴライズされるのだ。

それなのにフランス料理の作法も知らない。

そんなので良いのだろうか。


なんだか肩を落として帰ると不思議な同居人たちが今日の晩飯は何だと尋ねてきた。

「今夜はしょうが焼きだよ」

僕が言うと三人は手放しで喜んだ。万歳してお互い肩を叩きあっていた。

こういうとき、僕は自分の居場所はここでいいのだと安心するのだ。