日常と虚構のワルツ

嘘時々ホント

東京

は飲屋街が多い。

中野だとか、新宿の思い出横丁だとか、変わっていて独特で面白い飲屋街が多い。

関西だとあまりない。

せいぜい大阪の難波くらいだろうか。


今日は横浜にある野毛という飲屋街で飲み会の予定である。

既に財布はエマージェンシーの警笛を鳴らしていたが、前々から行きたかったので財布に火をつけることにした。


変わった飲屋街と言うのには色々と思い出がある。

あれは五年前。

当日友人と共に飲屋街を練り歩いていたところ、不思議な横道があった。


「行ってみよう」


もはや一見のお店にばかり立ち寄っていた我々。

夜の街の奥深く、渦の底まで見てみようと言うことになったのだ。

その狭い路地を抜けると、奇妙なくらい広い空間に小さな出店が立ち並んでいた。

しばらく歩くと、美味しそうなビールのお店があった。

早速入ると、キツネ顔をした店主が「いらっしゃい」と愛想よく出迎えてくれた。


「こりゃ珍しい。人のお客さんだ」

僕と友人は顔を見合わせた。何を言ってるんだこいつは。

「こんなところにお店なんて、珍しいですね」

「そりゃあ、こんな妖怪の飲屋街が外にあったら驚くでしょう」

「妖怪の飲屋街なんですか、ここ」

「ええ、まぁ。知らずに来たんで?」

「はい」

「じゃあ、きっと酒に呼ばれたんでしょうね。今宵のお兄さんたち、良い顔で酔ってらっしゃる」

「そりゃどうも」


しばらく飲んでいて、不意にトイレに行きたくなった。

近くになかったので、一度先ほどの路地を抜けて、近くの公衆便所で済ませることにした。

ただ、戻ろうとしても、もうあの路地は見当たらなかった。

路地があった場所には、小さな祠が一つあるだけだった。


あの時一緒に飲んでいた友人とは、今も連絡がつかない。

あの日以来、完全に彼は消息を絶っていた。


僕は、今でも思うことがある。

今度彼に会ったら、飲み代を請求されるかもしれない。

それだけは避けたい。

夜勤

だった。

出社するとあまり社員がいなかった。

アルバイトも、ほぼ常勤で入ってくれていた人を始め、メインメンバーと呼べる人たちがほぼ存在しなかった。

「今日えらく人が少ないですね」

僕が言うと、皆悲しそうに首を振るだけだった。

 

夜勤の空気は、まるでお通夜だった。

中には泣き出す人もいた。

いなくなった社員の、思い出話を語り出す人もいた。

 

どうしてそんな悲しそうなのだろう、と思っていたが、よくよく考えると先日大半の社員とアルバイトを僕が貪り食ったのだった。

申し訳ないことをした。

に帰って来た。

家と言うのは東京で僕が住んでいるアパートの事である。

夜行バスに乗って京都から東京まで帰って来たのだ。

 

久々の家は随分と閑散としていて、

「あぁ、僕は一人で暮らしていたんだな」

と実感する事が出来た。

 

少し寂しくなったので、「先にシャワー浴びて来いよ」ごっこをした。

「先にシャワー浴びて来いよ」ごっことは、「先にシャワー浴びて来いよ」と空想上の恋人に向かって発言するという遊びの事だ。

僕はこの遊びが好きで、職場で誰とも会話しなかった日はよくこの遊びをした。

調子がよければえなりかずきの物まねを挟みながらするのだった。

 

今日のえなりかずきは少し偉そうな「先にシャワー浴びて来いよ」だった。

明日はもっと優しく「先にシャワー浴びて来いよ」と言おうと思う。