日常と虚構のワルツ

嘘時々ホント

夜勤

だった。

出社するとあまり社員がいなかった。

アルバイトも、ほぼ常勤で入ってくれていた人を始め、メインメンバーと呼べる人たちがほぼ存在しなかった。

「今日えらく人が少ないですね」

僕が言うと、皆悲しそうに首を振るだけだった。

 

夜勤の空気は、まるでお通夜だった。

中には泣き出す人もいた。

いなくなった社員の、思い出話を語り出す人もいた。

 

どうしてそんな悲しそうなのだろう、と思っていたが、よくよく考えると先日大半の社員とアルバイトを僕が貪り食ったのだった。

申し訳ないことをした。

に帰って来た。

家と言うのは東京で僕が住んでいるアパートの事である。

夜行バスに乗って京都から東京まで帰って来たのだ。

 

久々の家は随分と閑散としていて、

「あぁ、僕は一人で暮らしていたんだな」

と実感する事が出来た。

 

少し寂しくなったので、「先にシャワー浴びて来いよ」ごっこをした。

「先にシャワー浴びて来いよ」ごっことは、「先にシャワー浴びて来いよ」と空想上の恋人に向かって発言するという遊びの事だ。

僕はこの遊びが好きで、職場で誰とも会話しなかった日はよくこの遊びをした。

調子がよければえなりかずきの物まねを挟みながらするのだった。

 

今日のえなりかずきは少し偉そうな「先にシャワー浴びて来いよ」だった。

明日はもっと優しく「先にシャワー浴びて来いよ」と言おうと思う。

実家に

いる。

大学時代の部活の友人の結婚式の二次会に出る為だ。

今何回「の」って言ったのだろうか。


会場には久々に会う後輩や友人もいて、なかなかに楽しかった。

良い雰囲気で、僕は変わったようで変わらない皆の姿に、学生時代を思い出して懐かしくなった。


学生時代の僕はと言えばもっととげとげしていた。

いつも殺戮を求めていたし、大学は僕にとって戦場だった。

血に飢えたナイフが渇きを知ることはなく、ふと見るといつも地面には人間の一部が転がっていた。


ある時僕がスナイパーライフルを覗きながらくわえタバコをしていると「何してんですか、先輩」と後輩のみことちゃんが話しかけてきた。

みことちゃんは新兵で、僕の一個下の女の子だった。

「狙いを定めてんのさ。教授をいつでも殺れるようにな」

「なんでそんな簡単に人を殺せちゃうんですか。みんなおかしいよ。この世界も、この戦争も」

「単位を取ればいい。そうすりゃ解放される。殺すのだって、その為だ」

「そんなやり方、絶対間違ってる」

「でも殺らなきゃ殺られるんだ。この世界はそういう風に出来てる」

「もっと、もっと違う解決法があるはずですよ!」

みことちゃんは叫ぶと、どこかへ走って行った。

その姿を見て僕はやれやれと肩をすくめた。若いな。


数ヶ月後、みことちゃんは学校を辞めた。

その手があったか、と思った。